きみを見つけた

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「て訳で、俺中之島と、片平、川瀬、伊波は四年だから、来年は卒業です。あ、片平と伊波は院に行くかもしれないけど、一応サークルの中心は学部生だから、ゲスト的な扱いになります。んで、俺たちが卒業したら、メンバーは今二年の幸崎、本橋、一年の生駒、成井田の四人プラス新一年生になります。そこで……」  中之島は教室内を見回すと、後ろの方に座っていたさつきに手招きして、前に来るようにと呼び出した。  さつきは首を傾げながらも、教卓そばに居た中之島の横に並んだ。 「三年生がいないので、来年度からは、このサークルのことは、コウちゃんに任せたいと思ってます」  横にいる幼馴染みの口から飛び出した宣言に、さつきはぎょっとして固まってしまう。 「おー。いいじゃん。適任じゃない」  片平が拍手すると、他のメンバーも首を上下に動かして同意した。 「ユキちゃん……」 「コウちゃん、いきなりでごめんね。でもずっと考えてたんだ。大丈夫。ちゃんと引き継ぐし、困ったことがあったら協力するから」 「でも……」  さつきと同じ二年の本橋は時々しか活動に参加しないので、順当にいくとほぼ皆勤賞のさつきしか適任はいなかった。しかし、まとめ役などやったことがないさつきは、不安顔で中之島を見つめる。 「挑戦してごらん。きっと、気付くこともたくさんあると思うよ。俺のサークルを頼むよ。コウちゃんにしか頼めないからさ」  そう懇願されて、さつきはまだ複雑な顔のまま、何とか頷いた。  来年度の部長発表と次回の活動について話した後は、大学近くの居酒屋で新入生歓迎会が開かれた。堀ごたつの座敷席で、新入生の生駒と成井田を中心に終始和やかな雰囲気だった。 「生駒俊(いこま しゅん)です。香川県高松市出身で、高校ではアメフトしてました。学部は文学部英文学科です。よろしくお願いします」  色白でひょろりとしている生駒がそう挨拶をすると、拍手と共におお~っとどよめきが起こった。 「マジで~? かっけ~! 陸上とかやってそうかと思ったけどアメフトなんだ。やっぱモテる?」 「かっこいい奴はモテてました。自分は童貞ですが」 「うっそ! 仲間じゃん! チェリボ同盟に入れてやるから、そのまま四年になれよな!」  上機嫌になった片平は、「いや、遠慮します」と真面目に答える生駒と無理矢理肩を組んで、端の席に連れ去ってしまった。それを横目で見て苦笑しつつ、中之島が進行する。 「じゃあ次、成井田くん」 「はい」  呼ばれた成井田が、その場で立ち上がる。スラリと伸びた足に均整の取れた顔で、一年とは思えないほど落ち着いていた。 「神奈川出身の、成井田幸一郎(なるいだ こういちろう)です。高校は吹奏楽部でした」 「そうなんだ。俺も吹部だった。楽器は?」  中之島が嬉しそうに顔をほころばせて、成井田に質問する。 「コントラバスです」 「今も弾いてる?」 「今は、高校の友達とバンドで時々弾くくらいです」 「バンドやってるんだ。何系のバンド?」 「やりたい曲を弾く、気まぐれなバンドです。ジャズや邦楽のコピーもするし、オリジナルも今のところ二曲だけあります」 「へー! 身体締まってるけど、運動もしてるの?」 「バンド仲間で、時々フットサルするくらいです」  席に着いても、成井田は片平以外の四年に取り囲まれて次々と飲み物を注がれ、もてなされた。 「チッ。イケメンは男にもモテんだな~! なぁ、コウちゃんもこっちで飲もうぜ!」  片平に呼ばれ、さつきは席をずれて片平の言うところのチェリボ同盟グループに混ざった。片平に捕まったまま、マンツーマンで延々と恋愛論を聞かされていた一年の生駒は、さつきが来たことでほっと胸を撫で下ろす。  さつきは、間違えて頼んでしまった梅干しサワーをちびちびと舐めながら、片平の「彼女が出来たら、ああしたい、こうしたい」という話を真面目に聞いて相槌をうっていた。  中盤になると各々席を移動して、好きに飲んでいた。喫煙者の中之島と伊波の四年組と、二年の本橋は喫煙所に中座し、片平は引き続き生駒に絡んで、川瀬に嗜められていた。  さつきは人が減ったタイミングで、ひとり自席に戻り食べ損なっていた料理に手をつけた。冷めた料理をぽつぽつと口にしていると、ふと隣に気配を感じて顔を上げる。 「俺も名前がコウイチロウなんで、高校ではよくコウちゃんって呼ばれてたんです」  グラスを持った成井田が横に座り、さつきに笑いかけていた。
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