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俺はただなんとなく飲んでいなかっただけなので、この日初めてオキシトシンNを飲んでみることにした。
母さんオススメのホットのオキシトシンNだ。寒い日にはこれに尽きるらしい。
ボトルのキャップを開けて、一口目を口に含んだ。ジンジャーの良い香りが鼻腔を心地よく刺激する。ジンジャーの効果なのかオキシトシンの効果なのか、喉、胸、お腹とオキシトシンNが通ったところがポカポカと暖かくなる。なんだか胸が満たされたような気持ちになった。
俺は1本180mlをあっという間に飲み切った。
少しすると、なんだか自分の中の尖った感情が丸くなり、優しい気持ちが溢れてくるような気がしてくる。オキシトシンが身体に染み込み、血液に乗って脳内に作用してきているのか。
案の定、俺はオキシトシンNの大ファンになった。
毎日欠かさずオキシトシンNを飲んだ。たまにコンビニの在庫が切れていたとしても、俺は決してイライラしなかった。きっとオキシトシンの効果だったのだろう。
発売から一年経ってもオキシトシンNの勢いに陰りは見られなかったが、やはり、中毒症の問題は避けられなかった。
摂取を継続すると、だんだんとオキシトシンNの効果に満足出来なくなり、より強い愛情ホルモンを求めるようになってしまうようであった。
しかし、その症状についても世間では問題にはならなかったのだ。
より強い愛情ホルモン、そう、それは人のぬくもりで得られるものだった。
愛情ホルモンに飢えた日本国民は、温かな人のぬくもりを強く求めるようになり、オキシトシンN発売から3年後には、なんと日本の婚姻率、出生率ともに反転上昇し始めたのだ。
もう誰もオキシトシンNに関するネガティブキャンペーンを行う者はいなくなった。
政府もマスコミもこぞってオキシトシンNの飲用を推奨していた。
俺はといえば、ちょうどオキシトシンN発売から1年後に就職活動を迎え、晴れて大手の製薬会社に内定した。驚くなかれ、内定先はあのオキシトシンNを開発した明昭製薬の研究部門である。
俺が明昭製薬の研究部門にて働き始めてから3年が経った。努力が評価され、俺はついに会社の花形であるオキシトシンNを担当する研究グループに配属された。
俺はオキシトシンNの成分分析から当局認可書までありとあらゆる調査書を確認した。
そしてすぐに気付いてしまった。
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