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オキシトシンNにとって最も重要であり、技術の結晶が詰まっているべき部分、"どうやって経口摂取したオキシトシンを脳内まで届けられるようにしたのか"、についての情報がどこにも見当たらないのだ。
オキシトシンをそのまま経口摂取した場合、消化管で直ちに消化されて分解されてしまう。例え血液に直接投与したとしても、3分間で半分は分解されてしまうし、ましてや脳内にまでなんて殆ど届かないのだ。
その問題を解決したのがオキシトシンNである、と思っていた。
俺はオキシトシンNに開発時代から携わっている主任研究員に問いただした。
「オキシトシンを経口摂取からでも効果があるようにした技術について、どこにも記録が見当たらないのですが…」
主任研究員はじっと俺を見つめ、そしてゆっくりと答えた。
「どこにもないだろうね。そんなものは」
「え!?どういうことですか?」
俺は驚き、そして主任に詰め寄った。
「そんな技術は開発されていないのだよ」
主任は静かに答えた。しかしその目には覚悟の色が感じられた。
「し、しかし、確かに人々はオキシトシンの効果を実感していますし、僕自身だって効果を体感出来ています!あ…、まさか…」
俺は嫌な予感がした。
「そう、それはただのプラシーボ効果だよ」
「そ、そんなバカな…!だって臨床試験だって通っているんですよ!臨床試験はプラシーボ効果を排除するように実施されているはずです!それを偽ったりしたら、それこそ厚生労働省が黙ってませんよ!」
俺は語気を荒げた。
「そうだな。もちろん製薬会社としてそんなことをして問題になったら一発アウトだ。しかし、もしこれが厚生労働省も認めたことだとしたら?ましてや政府から依頼されたものだとしたらどうだ?」
俺は自分の心臓の鼓動がかつて経験したことがないほど速くなっているのを感じた。
主任は続けた。
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