幸せの届け方

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もう、何時間経っただろう。ほんの数時間のような気もするし、永遠だったような気もする。  長いのか短いのかわからない。そんな風に思えるほど、目の前の景色は変わらなかった。  科学的に装飾を施されたイルミネーション、目の前を行きかう男女の群れ、サンタの格好をして必死に客寄せするケーキ配りのアルバイト、既読のつかないメッセージ。その景色がもうずっと続いている。  イヤホンから流れる音楽はアルバムをもう二、三巡していた。一曲平均約四分、それが十二曲分。それだけの時間が経っても私の目の前の状況に何ら変化をもたらさないということは、考えられる結果は一つだけだ。  彼に……捨てられた。言葉にすれば、あまりに短絡的な結果だった。  元々兆しはあったのだ。付き合っていた当初は一時間と待たずに帰ってきたメッセージが今は二日、三日帰って来ないのは当たり前。 偶のデートの時にはほとんど二人の間に会話や触れ合いは無くて、ただ業務的にデートと言う体裁を守り続けていただけ。 普段からそれだけ冷めきっていた恋の結果なら、今の現状は納得でしかない。 それでも、少しでも期待していたのはなんでなんだろうか。恋は盲目とよく言うけれど、ここまで来るとまるで幻覚症状あるいは全部が夢だったんじゃないかとさえ思えた。 元々予期出来た結末だ。そのはずなのに、私はまだ惨めたらしくここにいる。甘い夢に溺れている。本当は電車が遅延しているだけだとか、仕事が立て込んでしまっているだとか、そんな砂糖よりも甘すぎる幻想にしがみついてしまっている。 なんとも滑稽だと思う。それでも信じていたかったんだ。彼は来てくれると、寒さで震える手を握り、昔みたいに笑いながら頭を撫でてくれると、そう信じて疑えなかった。 その結果がこれなら、もう笑いようもない。 多分これは私の罰だ。二人の間の温度が急速に失われ始めていることに気が付きながら、自分に都合が悪いからと目を逸らして、希望的観測ばかりを信じ続けて、関係の修繕を行おうとしなかった。 彼を好きでいる喜びばかりで、好きでいてもらう努力を怠った。そんな怠惰な私に課せられた罰。
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