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もう涙も隠さず、ただ目を腫らしたままここを立ち去ろうとした時。
「……あのっ!」
突然肩を叩かれて驚いた。
振り返れば、さっきまでケーキを必死に売りさばいていたサンタ姿のアルバイト店員が肩で息をしながら、手に持った包みをこちらに向ける。
「よかったら、これ。もらってください」
少しだけ緊張しながらそう言って包みを渡してくる彼に、何故か不信感よりも必死さの方が私に伝わってきた。邪な感情のない贈り物であると、彼の瞳から誠実さというのが滲み出ているようだった。
「これは……?」
「うちで売っているケーキです。流石にホールは無理だったんで、ショートケーキのほうにしました」
聞きたいことはそんな事じゃない、と彼に目だけで訴えて見せると彼は肩を竦めながら笑ってみせた。
「そんな悲しい顔して今日を終えて欲しくないんです。折角のホワイトクリスマスなんですから、少しでも幸せになって欲しいんです」
その言葉に触れた瞬間、悲しみに暮れていた私のうちに暖かなものが溢れていくのを感じた。自分の心の内を心地よい風が撫でるようだった。
「私、そんな酷い顔してました?」
「そう……ですね。少し放っておけなくなるくらいには」
茶化したようにいう私に彼は少しだけ苦笑しながら答えた。少しでも不快にさせないように必死な言葉を選んでくれているのがわかる。
良い人なんだなと、素直に思う。多分この人はずっと、一人で泣いている私を見て放っておけなくなったんだろう。それを少しでも救いたいと考えたのかもしれない。そう思って行動に移せるなんて本当にすごい人だ。
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