幸せの届け方

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 この世界で、立ち止まって泣いている人に手を差し伸べられる人間がどれだけいるのだろう。その勇気を持っている人間がどれだけいるのだろう。  この人はそれを持っている。手を差し伸べるために駆けだせる勇気を。私には無かったものを、この人は持っている。  そしてそんな勇気を持つ人間を、手を差し伸べてプレゼント一つで幸せをくれる人間を私は良く知っている。 「……サンタさんって本当にいるんですね」  私が思わずそう呟くと、彼は目を一瞬開かせた後、本当に嬉しそうに笑った。 「そう呼んでもらえるなら、こんなに嬉しいことはないです」  その嬉しそうな笑顔を見て、自分の中に温度が蘇ってくるのが分かった。幸福という名の温度が。 それだけで、なんだか救われたような気分になれる。 「本当に、ありがとうございます……人生悪くないなって少しだけ思えました」 「その少しだけで、僕も救われます。それじゃあ、もう戻りますね。もう一人のサンタクロースがてんてこ舞いみたいなので。……良いクリスマスを」  そう言って去っていった彼の後姿を見送って私も歩き出す。 胸の内ではずっと、雪を溶かすくらいの幸せの温度が私を満たしていた。
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