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ぶっきらぼうな口調で報告すると、梶さんは「え?」と言って、黙り込んだ。
俺も同じ気持ちだ。
「飛んだんすかね」
思ってもいないことが、俺の口から吐き出される。
「いや……彼はそんなこと」
電話口でも梶さんの言葉に動揺がにじんでいるのがわかる。俺は明石の紹介で梶さんと知り合った。梶さんのほう明石との付き合いが少なからず長いはずだ。なにか判断材料を持っているかもしれない。
「そんなことはしないと思う」
梶さんの声ははっきりとそう言ってくれた。
「きみはどう思う? なにかいつもと違う様子があった?」
「いいえ、特にはなにも。いつもの、普通の明石だったと思います」
建物の壁にもたれて話していると、目の前を子供が駆け抜けて行った。白いブラウスに黒いプリーツスカートを履いた、小学生ぐらいの女の子供。一瞬だけ目があう。強張った白い顔をしていた。子供はそのまま、まるで何かから逃げるように走り去っていく。
「じゃあ、現場でなにかあった?」
「心当たりはなにも……」
通りを行きかう顔を見回してみても、見慣れた顔はどこにもない。
なにかが胸の底を引っ掻いている。
どうなってるんだ?
なにが起こってる?
「……本当に、飛んだとかじゃないんすかね」
もはや俺の言葉は梶さんに縋りついているようなものだった。
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