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言葉を口にしながら当時のことを思いだす。意外にも断片的にしか覚えていなかった。
「その人はジョージさんとあっくんが噛みあうとわかってたんですか」
「いや、そんな感じじゃなかったけどな。たまたまそこにいたのが明石だったぐらいの」
俺たちが駆け抜けると、倉庫の影に茂っていた雑草が揺れた。
前を走るハルのカーディガンの裾が揺れて、ぬいぐるみみたいなリュックが跳ねている。
「どう思いました?」
「は?」
「あっくんを紹介されて」
再び倉庫間の小道に達する。一時停止し、建物の影から人の姿がないか周囲を見回した。
あたりを確認しながら、俺はひそかに返答に困っていた。
「いや、べつになにも。あら、どうも。ぐらいの感じだったかな」
「そんなものなんですか」
「そんなもんじゃねぇの?」
思っていたことを違ったのか、ハルはわざわざ振り返って来た。
「じゃあ、いまはどう思いますか。あっくんを紹介されて」
「いやぁ……改めて聞かれるとなぁ。これが普通になっちまってるからなぁ」
そんなに気になるものなのか。少年はさらなる言葉が出て来るのを待つようにじっと俺を見上げて来ていたが、言葉に窮している様子を見て、うんうんと頷いた。
「そういう普通っていいですね」
そう言ってまぶしそうに目を細めている。
「うらやましいです」
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