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下の騒ぎが駆け上って来るようだ。まるで地獄をのぞき込んでしまったように怒鳴り声や泣きわめく声に銃声やなにかが破壊される音が聞こえてくる。倉庫全体が振動しそうなほどの慌ただしさだ。 そんなけたたましさにもハルは歩みをゆるめることなく、階段を昇り始めた。 俺たちが隠れている外周通路と壁一枚隔てた廊下をせわしない足音が走り抜けて行く。各階の人員が騒ぎの大本へと駆け付けて行った。怒鳴り声と金切声、集団の足音と銃声。数分前までの静寂を無残に引きちぎっていく。 真上から足音が聞こえた。 「鉢合わせになるぞ」 「まかせてください」 格子越しに汚れたスニーカーが見えた。手すりを掴んで身体を切り返した男が、階段を昇って来る俺たちを気づいた。目を丸くして呆然と、足を止めて見下ろしている。 ハルはカーディガンを弾いて腰のホルダーからナイフを引き抜いた。 男がなにかを言おうと口を開いた。その喉に細身のナイフが突き立つ。敵の身体がのけ反る。胸と腹部にハルが投げつけた追い打ちの二本が刺さった。男の身体が後ろ向きに倒れて行った。 俺たちは身を屈めて、階段の登り口から次の階の様子を伺う。     
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