5/10
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
数メートルの距離を埋めようと、男が近づいているところだった。右手に大ぶりのナイフを握っている。右の耳のピアスがチカッと光った。俺と目が合うと一直線に突っ込んできた。 俺は棚のファイルを敵に向かってぶちまけた。書類が飛び出して舞い散った。視界を塞がれた男の動きが鈍った。すかさず銃を向け、引き金を絞った。二発の銃弾が胸を穿ち、後方の段ボールの上に背中から倒れ込んだ。落ちて来た紙が男の胸に落ちて赤く汚れていく。 男が握るナイフを見て、ハルへ声を投げる。 「銃を持ったヤツがまだいるぞ!」 叫び終えるやいなや、棚の影に控えていたハルが動き出す。 通路に飛び出すと、斜め前の棚へと滑り込んだ。ナイフを投げ放つ。床を滑りながら放たれたナイフが斜めに急襲。奥に潜んでいた男の右目に突き刺さる。銃を下に向けたまま、男はのけ反り棚に向かって倒れ込んだ。死体を受け止めた棚から瓶が次々と落下していく。けたたましいガラスの割れる音に、液体が飛び散る音も聞こえて来る。 「――ハルくん、いま大丈夫かな」 インカムから梶さんの声が入り込んだ。 まるで風が通り過ぎていくような、そんな自然な調子だった。ハルと話すときは気持ち穏やかにしゃべっているのかも知れない。 「よくない話と、もっとよくない話があるんだけど、よくない話から聞いてね」 「あ。選ばしてくれないんですね」     
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!