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ライダージャケットのポケットに手を突っ込んで、むっすりと歩いていたら、いつの間にか街のネオンがまぶしかった。緞帳を下ろしたような夜の空が広がり、街の明かりが星の光をはじき返している。
信号で立ち止まるたびにスマホを取り出すが、誰からの連絡もない。
俺の足は意地を貼るように夜の街をあてもなく進み続けた。
これで普通に家に帰っていたとかだったら、奴を逆さに吊るして皮をはいでやる。生皮をはがしたあとに唐辛子を塗りこんでやりたい。細かい作業は苦手だがこれに関しては丁寧に出来ると思う。
だが、明石がどこに住んでいるのか知らない。
情報を集められるほど、家族構成も友人関係も知らない。
この街の出身ではないらしいが、じゃあどこの生まれで、なにをしていたのかも知らない。
俺に紹介してくれたバーのマスターも、三年前に突然店を閉めて以来行方不明になっている。
ふわふわとどこかへ行ってしまったあいつを手繰る糸は、俺にはまったくないのだ。
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