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ペンライトをひねると、闇がはじけ飛んだように、鮮明な足元が照らし出される。 暗闇を円形に切り取るライトを頼りに、狭い路地を進んでいく。 夕方訪れていた現場は、真夜中となると別の場所のようだった。深い影が覆いかぶさるように続いている。ジャケットの肩口が壁に擦れる。周囲を壁に、頭上を夜空に蓋された暗い箱のなかをにいるような気持だ。 壁に手をついて、前方をライトで照らし出す。 突き当りの壁を丸い明かりが這った。 そこは昼間、俺たちが標的を放置した場所だった。すでに死体は片づけられていて、落ちていた雑誌も消えている。血のあとも洗い流されていて、地面がわずかに濡れているのか、ここだけひんやりとしていた。いつか会った掃除屋三人衆のことが頭をよぎる。 俺は足元を照らし出しながら、路地を先に進んでいく。 隅に積もった砂埃。踏みつぶされた空き缶。変色した紙切れ。吹き溜まりのようにいろいろなものが落ちている。 せめて、見覚えのあるものは落ちていないか目を凝らした。 スマホとか、鍵とか、財布とか。なんでもいい。なにか。なにかないか。 壁伝いに進んで、路地のさらに奥へと自ら飲み込まれて行く。     
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