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あいつがこの路地のどこかに転がっていたり、物陰に隠れている可能性だってゼロじゃない。それが生きているのか死んでいるのかはわからない。暗闇を照らし出すたびに嫌な汗がじんわりにじむ。 明石へつながるしるべがなにもない。四方八方に道がない。けれど進まなければ落ち着かない。胸の底を何者かが引っ掻き続けている。俺の足を不安が突き動かす。 これまで似たようなことはあっただろうか。多分なかった。 コンビを組んでおよそ四年。 ひとりで受けていたころより、出来る仕事は増えたし、梶さんを紹介されてからは無理なスケジュールを組まれなくなって心身ともに負担が減った。 空気を読まない言動に苛立つこともあるが、気を使わなくていいから気楽でいられた。 もしも最悪な結果になってしまったら。 これまでの時間がなくなるのが怖い。 今日を境に、相棒を失い、いままでのことがすべて過去になる。今朝起きたときにはこんなことになるなんて思ってもみなかった。明石がいなくなる一秒前だってそうだ。突然すぎる。身勝手なほど突然すぎる。 大荒れの海でもがいているような息苦しさだった。胸がぎゅうと圧迫されたような、身体中から少しずつ力が抜けて行くような、足元のおぼつかなさに、壁に手をつくのに体重を預けるようになっていた。確証もないのに嫌な予感だけが頭のなかで吹き荒れている。     
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