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そういえばあいつの家の鍵なんか見た覚えないし、財布だって何度か見てるけどぼんやりとしか記憶に引っかからない。あったところでそれが相棒のものか判断できるかわからない。それでも手あたり次第に照らし続けるよりほか出来ることがなかった。
そばの壁にライトを這わすと、赤茶色の煉瓦塀に黒い飛沫のようなものが落ちているのに気が付いた。
「……これは……もしかして血か?」
砂を踏む音が聞こえた。
すぐさま足音のした前方へライトを向ける。
円形に闇を取り払う光が、ひとりの人間を照らし出した。
「ヒューッ! ありがとうスポットライト! 俺さまくんの、登場だお!」
ふざけたセリフと理解不能なほどの明るい男の声とともに、その姿が浮かび上がった。
ピンクのヒョウ柄のパーカーを着て、プラチナの髪に黒いニット帽を被っていた。両耳にはいくつものピアスがぶらさがっている。薄い眉と唇にもそれぞれ、シルバーのボディピアスがくっついている。
「……蛇? なんでこんなところに……?」
おもわぬ奴の出現に呆気にとられてしまう。
ライトを下ろすと、再び降り注ぐ暗闇のなかで、蛇はひっそりと笑った。
ねっとりと目元を細める、粘着質な笑みをうかべて口角を持ち上げている。
「ちょっとしたお使い。そういうおにいさんこそ、どしたのかな」
「……お前には関係ない」
短く吐き捨てる。
蛇は闇のなか、パーカーのポケットに手を突っ込んで、じっと俺を見て来た。
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