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「――明石?」 返事はない。 振り返ると、そこには誰もいなかった。 西日の差しこむ狭い路地。建物の壁が押し迫って来る、隙間のような突き当り。 砂埃とゴミが積もった地面には、壁に頭をもたせかけるようにして目標だった男が倒れ込んでいる。息絶えているのは確認した。そばに落ちているふやけた雑誌が流れ出た血を吸っている。 さっきまで明石が立っていた場所は、オレンジ色の日差しに照らし出されて、空気中の細かい塵がチラチラと舞い上がっているだけだった。 路地は口を閉ざしたように黙り込んでいる。 明石がいなくなった。 なにも言わずにどこか遠くへ行くやつじゃない。 そう思ったものの、言いきれないと考える自分もいる。 携帯はつながらない。鳴り続ける呼び出し音にしびれを切らして通話を切る。現場を離れながら何度か繰り返していた。この沸々とした気持ちがイライラなのか、それとも不安なのか、どっちも入り混じったものなのか、自分でもわからない。 現場から数ブロック離れた街角で、梶さんに連絡をいれた。 「明石がいなくなりました。連絡もつかなくて」 どんな感情で言えばいいのかわからない。     
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