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1 (ゾイ)
水曜日の午前中。
教会の両開きの扉を開けると
めずらしく神父服姿のジェイドが 長椅子に座って
助祭の本山さんと笑って話してた。
「ゾイ。おはよう」
「おはようございます」
私も二人に挨拶を返すけれど
本当ならもう、“こんにちは” でも大丈夫そうな時間。つまり、早くはない時間ってこと。
「朋樹たちは?」と 聞いてみると
「あいつは本を読んでたけど、ルカと泰河は
客間で まだ寝てるよ」ってことみたい。
「さあ。じゃあ少しずつやろうか」って
ジェイドは長椅子を立ち上がると、朗読台に置いた聖書を取って、後ろの方の席に私を呼ぶ。
「本山さんは?」
「僕は、信徒さんとお話ですよ。
相談の予約が入っているので」
「お願いしますね」と、ジェイドが本山さんに言った時に、教会の扉が開いて
相談の予約をしたらしい男の人が入ってきた。
遠慮がちに会釈して、ジェイドや私に眼を止めた彼に「こちらへ どうぞ」と、本山さんが
前の方の長椅子を示して呼ぶ。
すれ違う時に「司祭のヴィタリーニです」と
ジェイドが自己紹介して握手すると
その人は、ちょっと緊張が解けたみたいだった。
私も会釈だけして、ジェイドと後ろの方の長椅子に座る。
ジェイドは背が高いし、アッシュブロンドの髪に
薄いブラウンの眼。高さも形も整った鼻に
桜色の くちびる。
シェムハザ程でなくても、麗人と形容するのが
相応しい人。
ただでさえ、この国では “外人” ってことで目立つし、本人も気を付けているようで、物腰は いつも
とても柔らかい。
「どうかした?」って、ジェイドに
聞かれてしまって
「ううん」って、明るい陽光を浴びるステンドグラスに、一度眼を移す。
見惚れてしまった とは、何か言いづらくて。
「始めようか」って言った ジェイドに頷いた。
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