【 前編 】

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「あんたそろそろしっかりしないとダメでしょ。もうすぐ三十なのにフリーターってヤバイでしょ」  酔いが回り始めたサチコは言わなくてもいいことをズバッと言ってしまう。  見事なまでに自分のことを棚に上げるっぷりでマウントを取るのは日常茶飯事。 「俺にはイタリアンシェフになる夢があるんだよ!」  またその話か。と、マナブはうんざりしていたが、ダウン寸前の相手にも情け容赦なくトドメのパンチを叩き込む彼女のプレイスタイルに心底惚れていた。  惚れているからこそ、自分は反撃せず受け身でいることに徹することができた。優しさというよりも、サンドバッグになっている方が心身ともに気持ちが良いという特殊な思惑もあったのだ。 「夢、夢、夢! そうやって叶わぬ夢を追いかけてる風の生き様が許されるのはギリで二十歳まででしょ!」 「歳は関係ねーよ。夢は誰にだって夢を公平に、均等に、与えてくれんだよ。それが夢牧場! カムトゥルー!」  酒の力が思考回路を狂わせ、発する言葉のほとんどに意味が無くなる。     
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