【 愛をとりもどせ 】

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【 愛をとりもどせ 】

……回想にふけっている間に、ベッドの上のパスタはすっかり冷たくなっていて、それはもうパスタと呼べる代物ではなく、出来損ないの食品サンプルっぽい何かでしかなかった。  なんだかとても切ない気持ち。  布団もダメになり、パスタもダメになり。  そして昨夜、サチコとの関係も……  酔っ払ってて記憶があいまいだけど、リビングで彼女と楽しく飲んでいたのに、些細なことで口論になり激しいビンタを食らった俺はふてくされて寝てしまったんだ。  眠りについた俺の枕元に、怒り狂ったサチコが茹でたてのパスタを叩きつけたのか?  パスタを茹でるに至る引き金は何だったのか?    いやいやいや、怒った彼女がパスタを茹でるって何だよそれ。  原因が何だろうと、ムカついてパスタを茹でるってどんな感情? 怖すぎるだろ。  怒りでパスタが茹でたくなるなんて話、サチコから一度も聞いたことないし。百歩譲って茹でようと思ったとしても、どんな怒りもパスタを茹でている最中に収まるだろ。  酒の勢いで開放的になってつい茹でてしまったのだとしたら合点がいく。いや、いかないだろ。  何がどうしてそうなったのかまったく思い出せない。  不可解で巨大な謎を抱え、二日酔いでガンガンする頭も抱え、事件は迷宮入りかと思われたが。部屋の隅に転がっている耐熱ガラスボウルを見ながらあることを考えた。  もしかして、ダルくて今は動きたくないとか言って寝室から一歩も出ずに解決しようとするのは、間違ってるんじゃないだろうか?  俺は残された全ての力を振り絞り「よおぉぉーっこいしょっ!」と、重い腰を上げた。      物的証拠が残っている可能性のある台所に向かうと、シンクには寸胴鍋とザルと菜箸が乱雑に置かれていた。  パスタを茹でた痕跡。  調理をした後は洗える物はすぐ洗うのが基本。  何も洗わずそのままなのは、大雑把なサチコの仕業だと確信した。
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