年の差は経験の差

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「二度と同じ事しないでください」 我ながら甘いと思う。 普通ならばクビどころか警察が関与するであろう出来事なのだが、八代先生をつきだすのは気が引けた。 俺の激甘な対応に八代先生は余計に調子にのった表情を浮かべ抱きついてくる。 「なっなにするんですか!?」 唐突な抱擁に戸惑い大声で問えば、耳のすぐ横で「寺崎ごめんな」と先までと違う真剣な声が降ってきた。 急なシリアスモードにも驚いたが、自分の体が八代先生の温もりにより敏感になっている事のほうがより驚愕した。俺の体どうしたんだ。 そこで昨日あの後の記憶がない事に気づき、恐る恐る八代先生に問う。 「記憶が曖昧なのですが昨日って何かあったりしましたか?」 「…あってほしいのか?」 「いえ、ないのならいいんですが」 「ねーよ……あったらお前が起きてからピロトークの一つでも楽しんでたわ」 シリアスな物言いは一瞬だけだったようで、八代先生はいつもと変わらぬふざけた物言いで俺の問いに返答した。 嘘かもと疑いもしたが、下半身の怠さは確認できなかったので八代先生の言っていることは事実なのだろう。俺はほっと息をつき八代先生の腕の中から逃れた。 「変な質問してしまいすみませんでした…でも、疑われるような行為は今後慎んでください。他の生徒でしたら即刻クビ確定ですからね」 玄関に向かいつつ八代先生に説教じみた口調で話かける。気配から後ろからついてきているのが分かったので敢えて振り返りはしない。 床に落ちていた自身のカバンを持ち靴をはく。 何となく居たたまれなさがあり、この部屋を早く立ち去りたかった。 「ごちそうさん、うまかった」 「……母に伝えておきます」 「また来いよ」 「………」 最後の言葉には返事を返さず俺はドアノブを回した。 外はすっかり明るくなっており、初めての無断外泊に今から鬼の形相をする寮長の顔が思い浮かぶ。 後々聞くであろ説教は俺を今以上に憂鬱にさせた。
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