風邪から始まる嵐の予感

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「おいうちの子に堂々とセクハラするな」 「いくら陽介でも嫁にはやらんぞ」 前の机で仕事をしていた北野とキャビネットから過去資料を探していた近藤がすかさず俺に突っ込む。 保護者のような物言いにも最近では慣れ、生徒会内では密かにオカンオトンと呼ばれている。 「そんなに人肌恋しいなら俺がいくらでも暖めてやるよー」 「うるさいエロ西」 「ひっど!いまセクハラしてるの陽介だろ」 俺のこれとお前のそれを一緒にはして欲しくはない。口には出さないがじと目で訴えるとぶつぶつ文句を言いながらも江西は購買で買ってきたパンを頬張った。 その間も俺は並木から離れず軽く頭を押し付ける。 頭痛のせいか甘えたい気分なのだ。 「先輩、少し横になった方が楽かもしれないですよ?時間になったら起こしますから」 遠慮がちにくしゃりと俺の髪に触れる並木の手は人より冷えており後頭部がひんやりとする。 それが心地よく後輩に頭を撫でられる威厳のなさなど今はどうでもよくなった。 「……そうさせてもらうわ」 このまま仕事を続けても効率が悪いと判断し、俺はやっと並木の腰から手を離した。 ちらりと上を伺えば先ほど以上に顔を赤くした並木が「す、すみません!」と一人慌てている。 「せ、先輩に対して失礼だとは思ったのですがつい…不快でしたら本当にごめんなさい」 しゅんと耳としっぽを下げた 並木が大型犬のようで、俺は立ち上がり際にお返しとばかりに並木の自分より高い位置にある頭を撫でた。 「ありがとな、並木のおかげでちょっと疲れが癒えた」 目を細め笑いかけると並木はくすぐったそうにはにかむ。幼さの残った何の邪気もない並木の表情は最近の疲れまでも癒してくれているかのようだ。
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