風邪から始まる嵐の予感

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side 江西 はい、気まずい。 上岡を嫌いって訳ではないが、陽介に手を出したと思うとむかつくしイラ立ちも沸く。 そんな話聞きたくもないと思う反面、どこまでしたのか聞いておきたい気もするのだが上岡のような真面目人間にどう切り出すべきか悩む。 悩みつつ俺はコーヒーメーカーで自分の分だけコーヒーを入れる上岡の背中を睨んだ。 普段なら全員分入れるくせして根性悪いな。 誰だよ真面目人間とか言ったやつ。あ、俺か。 「陽介は俺が起こすから江西も仕事が終わったなら戻って構わないぞ」 一見、親切心で言っていると思うがこれは絶対に違う。ライバルの俺を遠ざけたいだけだろう。 余計苛立ちが募り、俺は悩むのもやめ口を開いた。 「上岡ってどこまで手出したんだ?」 「は?」 「陽介とどこまでやったかって聞いてんだよ。新歓時に陽介の首に跡つけてただろ」 突然の俺の問いに理解が追い付かなかった上岡は眉を寄せる。 その表情に今度は分かりやすく説明をしてやるが、上岡の眉間には先よりも皺が集まっていた。 「下世話だな」 「男子高校生だからなー」 「…お前こそどうなんだ?」 「上岡だって下世話じゃねーか」 攻防戦が続く。 お互い自分の方が一歩進んでいたいと思うからこそ相手に手の内を見せたくはない。 まあ手を出したという意味では俺の方が確実に下回っているだろうが。 ちらりとソファに目線を下げれば、当の本人である陽介は我関せずと寝息をたてていた。 「何か不毛だな」 「……お前が言い始めただろ」 「もういいわ!聞いた所で陽介の事諦めれる訳じゃねーし」 悪かったな、絡んで。と付け足し俺は残り一口のパンを口に詰め込んだ。 上岡は返事の代わりに俺のマグカップを棚から出しコーヒーメーカーにセットする。立ち込めるコーヒーの香りはほろ苦い。 恋のライバルではあるが、やはり上岡自身も嫌いではない俺は素直に礼を言い口角をあげた。
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