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side 上岡
噂をすれば、まさにその言葉の通りにこの人、五十嵐正嗣(いがらしまさつぐ)先輩は現れた。
江西はどちらかと言うと中性的な整った顔立ちをしているが、五十嵐先輩は彫りの深い男らしい顔立ちだ。俺からすればどちらもイケメンに代わりはないのだが、政央の生徒からは五十嵐先輩が圧倒的な人気を得ている。去年は剣道部の部長を務め生徒会長もこなしており、人気投票は下と大差を開き一位の座を入学以来取り続けるという偉業を成し遂げた。
五十嵐先輩がその場にいるだけで空気が変わる本物のカリスマだ。
「ご無沙汰してます、五十嵐先輩」
「ああ、中々顔だせなくて悪かったな」
コーヒーを机に置き椅子から立ち上がり軽く会釈をする。五十嵐先輩に向き直れば、昨年一緒にこの空間で仕事をしていた事が思い出された。
それほど月日が経った訳ではないが、やはり先輩のいる生徒会とそうでない今とでは空気の張りつめ方がちがう。数ヶ月前の出来事が既に懐かしく感じた。
「江西、俺がいつ後輩泣かせたか言ってみろ」
「今まさに俺泣かせに入ってるじゃないすかー」
「俺の推薦蹴ったお前がこんな事で泣くタマか」
「いたい痛いっ!!」
俺が一人昔に浸っていると、五十嵐先輩は江西の額を片手でギリギリと締め上げていた。
政央では代々、次期生徒会長を現生徒会長の推薦で決定している。昨年この伝統に基づいて五十嵐先輩が江西を推薦したのたが、「え、やだ」の一言でコイツはその話を棒に振ったのだ。
安江はその代わりに候補にあがった一人であり、本来ならば江西が生徒会長を務めていた。今となっては江西でなく安江で良かったと心から思うが。
「んで先輩なにしに来たんですか?」
締め上げられた額を擦りつつ江西は聞いた。
確かに俺も疑問だ。前任者とのミーティングは予定にはなく、安江からも五十嵐先輩がいらっしゃるとは聞いていない。
俺と江西は二人して首を傾げた。
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