風邪から始まる嵐の予感

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「今日はとりあえず職員室に寄って帰れ」 「テストも近いので授業だけは受けて帰ります」 「だから帰れと言っているんだ。テスト前に風邪移されたら周りが迷惑だ」 一週間後に控えた学力検査。 中間や期末ほど成績には響かないが、特待生として直仁さんに入学させてもらった俺は点数を落とす訳にはいかない。 あ、直仁さんに惣菜届けなきゃ。 目の前で説教モードの五十嵐先輩には悪いが、俺は後から直仁さんの所に寄ろうと回らぬ頭で予定を組んだ。 だが、五十嵐先輩の言っていることは最もで、他人に移すなどの迷惑行為は避けたい。 テストは一先ず忘れ早急に風邪を治し、上岡にでもテスト範囲の確認をしよう、と自分を納得させ席を立つ。 一瞬くらりときたがこれ以上心配をかける訳にもいかないので、何事もないと装い五十嵐先輩に向き直った。 「ご心配かけてすみません。今日は帰って早々に風邪を治します」 「送ってくから荷物もってこい」 「いえ、先輩も授業あるので大丈夫です」 「フラついといて逆らうな」 「………はい」 相変わらずの観察力に脱帽である。 これ以上迷惑をかけたくないと思うが、五十嵐先輩には逆らえない。普段ならば尊敬する威圧感もこの時ばかりは恨めしくなる。
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