風邪から始まる嵐の予感

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「朝イチの先生方の会議で使うプリントだけ仕上げてあがるって言ってたのでもう少しかかると思うよ。寺崎くん良かったら会長にもこれ届けてあげて」 副会長は袋から栄養ドリンクを出し俺に手渡すと再度頭を撫でた。 政央学園に転入してからこういったスキンシップが多くなった。前の高校でも男子高校生の戯れくらいはあったが、この学園はやはり普通とは違う。 まあ今となってはこれが普通となりかけているが。 「分かりました、副会長たちもお疲れ様です。明日は朝少し顔だしますね」 「いや俺たちも明日は朝行かないから寺崎も来なくていいぞ」 「そうなんですか?じゃあまた昼休みに」 「ああまた明日ね」とふわりと笑いかけてくれる副会長は少女漫画に出てくる王子様のように素敵である。会計や書記の先輩方も気さくに相談にのってくれる兄のような存在で、俺は小さくなる三つの背中に憧れの眼差しをむけた。 「会長、お疲れ様です」 未だ明かりが燦然(さんぜん)と輝く生徒会室を遠慮がちに開く。自身の席で黙々と仕事をされていた五十嵐先輩は扉の開く音に顔をあげた。 「忘れ物か?」 五十嵐先輩の短い問いに時間が押しているのだと察した俺は首を縦に振ってみせた。 同時に足を前に進めコトリと机の上に栄養ドリンクを置き、「手伝います」と俺自身も短く返す。 「そうか、ならこれを17部ずつコピーしてくれ」 「はい。ホッチキス止めは左上部でいいですか?」 「ああそれで」 副会長はもう少しかかると言っていたが、プリントの原本は既に出来ており五十嵐先輩の仕事の速さに驚かされる。 紙の束を受け取りつつ俺は密かに五十嵐先輩にも憧れを寄せた。
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