風邪から始まる嵐の予感

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「意外だな。上岡あたりと経験済みかと思ったが」 「いくら興味があっても友人とやりません」 「この閉鎖空間ではその思考もそのうち崩壊するぞ」 上岡の名を口にする五十嵐先輩に少しイラつきを覚え、自然と口調が強くなる。 言わんとしている事は分からなくないが飢えたハイエナでもあるまいし友人関係を崩壊してまで性欲を優先させたりなどしない。いや、したくない。 だが、興味があるのも事実だ。 いくら閉鎖空間といえどわざわざ男が男に体を開くのはそれなりの快感があるからだろう。貪欲盛りの男子高校生なら誰しもが知らぬ快感に興味を持つものだ。 それが身近であればあるほど好奇心も大きくなる。 俺も例外ではなくその男子高校生で、目の前の経験豊富そうな先輩の話しには興味があった。 「そういう五十嵐会長は聞くまでもなく経験済みでしょうね」 「知りたいのか?」 「………少し」 後ろの声がやはり楽しそうに弾んでおり多少の冷静さを取り戻したものの、好奇心には勝てなかった。 こうなれば先輩との下ネタ上等だ。 「女性とするのとは全く違う快楽ではあったな」 「やっぱり気持ちいいんですか?」 コピーを終えた紙と下から出てきた紙の束をまとめ、くるりと振り返り五十嵐先輩の顔を覗きこむ。 「人それぞれではあるが後ろを覚えると前弄るより好きって奴も多い」 「い、痛くないんですか?」 「それも人それぞれだろうな。………試してみるか?」 「…………先輩とですか?」 いや、友人としないと言っているのだから先輩ともする訳がないでしょう。 そう突っ跳ねなければならない場面なのだが、既に好奇心の塊と化した俺は皆が処罰を受けてまで求める快楽が気になって仕方がなかった。 「ふっ、流石に斡旋業者(あっせんぎょうしゃ)のように他人をお前に宛がったりはしない」 「…………」 「まあ無理強いはする気はないが、下手な奴と経験するくらいなら俺にしておけ」 「………お、お願いします」 男子高校生とは何とも弱い生き物なんだ。 自分の貪欲な欲求を生命の神秘とでもいいたげに心で言い訳を重ね、俺は目の前の五十嵐先輩に頭を下げた。 五十嵐先輩は俺が了承すると思っていなかったのか、一瞬目を見開いた。だが直ぐに先と同じように楽しげな笑みを浮かべ「こちらこそ」と俺の頭を撫でた。
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