風邪から始まる嵐の予感

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「ちょっ!さすがにこれは!!」 「お前がベッドって言ったんだろ」 「だからってこんな体勢で移動しないでください!」 確かにベッドがいいとは言ったが、まさかお姫様だっこされるとは誰が想像する。いくら五十嵐先輩でも体格のいい男をこの体勢で抱えるのは重たいはずだ。 一刻も早くこの浮遊感から逃れたい。 「とにかくおろしてください」 行き場にさ迷う手を五十嵐先輩の肩にかけ、ぐっと力を込め拒む。だがびくともしなかった。 え、どんな鍛え方してるのこの人。 同じ男として力負けしたことに少し落ち込みつつも無駄であろう抵抗を続ける。 「あんま暴れると落とすぞ」 「いっそ落としてください!」 痛みと引き換えに羞恥から逃れられるというのなら喜んで落ちてやる。 今から行う事に比べたらと笑われるかも知れないが、自分から望んで飛び込む羞恥と突然他人から与えられる恥辱では質が全くちがう。 俺は耳たぶまで真っ赤に染め五十嵐先輩を睨み付けた。 それに対し憎ったらしいほど綺麗な笑みを浮かべ、五十嵐先輩は寝室へと足をむける。 「諦めてベッドまで運ばれとけ」 抵抗しても抱えあげられる時間が長くなるだけだと悟り嫌々ながらも五十嵐先輩の首筋に腕を回す。落とされないようにというよりは降参の意味を込めて。
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