日常と化した異常

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一年生主任があの場にいるのは当たり前だ。 俺をあまり知らない一年生にすら見られた事に羞恥を覚えたのに、よく知る人間が見ていたかと思うと新入式以上に顔に血が昇る。 「年の割には色気あると思ってたが、ありゃ反則的だな。お前相手なら犯罪者になってもいい気がしたわ」 指の腹で紙の中の女を上からなぞる姿に、自分がされているような錯覚をおこしズクンと体が反応をしめす。 甦りたくもない記憶が鮮明に甦り居たたまれないのに、俺は八代先生から視線を外せずにいた。 からかわれているだけだと分かっているのに、八代先生の熱のある視線があの時の二人と重なってしまう。そんな自分の思考がより大きな羞恥に繋がり、きっと今の俺の顔はゆでダコのようだ。 (落ち着け……別にあの現場を見られてた訳じゃないだろ、写真の一枚二枚見られたくらい) 懸命に自身を落ち着かせようとしても一度ドツボにはまると中々抜け出せず、フリーズ状態が続く。 その間も八代先生の指は紙の中のグラビアを執着に撫で回していて、 (あーもう泣きたい) 許されるのならもう苛めないで!勘弁してくれ!とこの場に蹲ってしまいたい。だが俺のプライドと職員室という場所のせいでそれすら叶わない。 「とまあ冗談はこれくらいにして俺も仕事戻るわ。適性検査は明日の朝礼でやってもらうよう担任の先生たちに伝えとくから放課後にでも取りに来いよ」 八代先生は言うと同時に雑誌を閉じ封筒の中身をクラス毎に枚数を数えはじめた。 その姿に少し落ち着いた俺は「お願いします」と頭を下げ踵を返しそそくさと職員室を後にする。 「犯罪者ねー」 とにかく早く八代先生の前から逃げ出したかった俺には、先生の欲のこもった目も声も届かなかった。
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