日常と化した異常

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編入時に戸惑い嫌悪感を隠せずにいた俺に、学園の良さを教えてくれたのはこの男だった。 もちろん今では安江や上岡たちにも助けられているが、外の世界を知らないあいつらと俺とではたまに会話が噛み合わない事も多い。 右も左も分からない。価値観も合わない。そんな場所、そんな人たちと接するのが億劫でどこか冷めた目で一歩引いていた俺に、八代先生は「わっかるわー」と笑ったのだ。 どっかの熱血教師なら、人という字は~と有難いお言葉を下さるだろう場面で笑ったのだ。豪快に。 「男が好きですとか普通に気持ち悪いよなー。テレビでオカマみるのとは全然意味合いちがうし、ほんと勘弁しろって俺もなったなった!それにあの変な制度だろ?給料よくかったら即効で辞めてたわ」 「別に馴染む必要ないだろ。仲良くしたい奴とだけ仲良くすりゃいいし、まぁ辞めるなら止めもしないし」 教師からぬ発言だった。 だが、四面楚歌だった俺にとってその近い価値観は救いに感じられ馴染もうと努力をするきっかけをくれたのだ。 その後、八代先生が男もいけると噂で聞いた時には既に嫌悪感はなく、俺はただ騙されたと笑っていた。 「起きないと襲っちまうぞ」 こんな言葉が冗談でも口に出るようになったのだ。俺も大分この学園に毒されたな。昔の事を思いだしくすりと一人笑ってみてもやはり八代先生が起きる気配はない。 叩き起こすつもりできたのだが、忙しい中で仕事を引き受けてくれた八代先生を起こすのに躊躇した。 (……明日の朝に出直そうか) 結局起こせずベッドから離れ白いカーテンを音をさせぬようひく。 書類事態は明日でも支障はない。だがそんな気にもなれなかった俺は近くに置かれた椅子に腰かけた。 机に筆記用具と今日出された課題を広げ、生徒会室と違い静かな室内で一人すらすらとペンを走らせていく。 換気にひらかれた窓の隙間から入る春の風が心地よく、いつの間にか俺も開かれたノートの上で夢に落ちた。
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