日常と化した異常

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Side 八代 とにかく忙しい。 今年の一年生主任として就任してから2ヶ月半。 要領はいいほうだと自負していたのだが、やはり受け持つ生徒の数が5倍となっては体が追い付かない。 自身が受け持つ数学の授業を疎かにする訳にもいかないので、主任としての仕事は必然的に放課後に行う。 だが、職員室にいると「せんせぇ質問いいですかぁ?」と可愛い子ぶる生徒たち(実際に可愛いが)に時間を割かれ仕事が進まないのだ。 仕方なくここ最近は保険医に頭を下げ、保健室を仕事場として提供してもらっている。 静かで人が滅多に来ないここは仕事を進めるには最適で、たまに寝不足で頭が働かない時に仮眠もすぐに取れると一石二鳥だ。 「なにしてんだ、こいつ」 仮眠から起きると机に突っ伏し寝息をたてる寺崎の姿があった。 大方ここに来た理由は想像がつくが、ここで待つ必要はない。昨日の反応からして俺に会うのも避けたかっただろうに。 それでも自分の足で取りにくる寺崎の律儀さに口角があがった。 きっと俺を起こさなかったのもこいつなりの優しさか、と一人納得し先まで作業していた席についた。 「すみません、馴染む努力はしているのですが……」 寺崎が編入してきて間もない時期に一年生全員対象の二者面談が行われた。寺崎も例外ではなく、面談時に馴染めていないことを指摘すればあからさまな嘘を吐いた。 それが可笑しく、俺は教師の立場ではなく同じ一般の思考の持ち主として寺崎に話す。 寺崎は俺の教師からぬ態度に嫌そうに眉を寄せ、その後に肩の力が抜けたのか、へにゃりと笑った。 あどけない年相応の笑顔が可愛らしいと思ったのはほんの半年ほど前だ。 そんな少年が一変してあんな表情を見せるとは想像もしていなかった。 俺は今でも脳裏に焼き付いた新入式の写真を思いだし、小テストの採点をする手をとめる。 「どこであんな色気覚えてきたんだか」 すやすやと気持ちよさそうに眠る少年に、俺は欲にまみれた視線を送った。
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