日常と化した異常

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ふわりと煙草の独特な匂いに俺はうっすらと目を開いた。 咥え煙草でプリントの採点をする男があまりに格好よく寝ぼけたまま少し見とれていれば、プリントから顔があがり目があってしまった。 「起こしにきた本人が寝てちゃ世話ねーな」 相変わらずの嫌みたらしい口調とは裏腹に八代先生の目元は優しく細められた。 幾分かマシになったクマに俺も自然と目を細める。 「すみません、仕事をサボって寝ている割には熟睡でしたので大人しく待っていたらうとうとしてしまいました」 「可愛くねーな」 「お互いさまです」 淡々と声を荒らげるでもなく八代先生と俺は言葉をかわす。 内容は普段の皮肉と変わらない。けどどこか居心地のいい空間にほっとした。 口はそのまま俺との会話を続け、八代先生はプリントの採点に戻り、俺もまた書き途中のノートに向き直った。 「そういえば、これ取りに来たんだろ」 あれから数十分。 下らない会話をしつつ、お互い作業を終らせた。 「この数の集計ひとりでするのか?」 八代先生の鞄から取り出された封筒を受け取り中身を確認すれば一年生全員、160人アンケートがしっかりと収まっていた。 「今週は皆バタバタしてますので」 この数を週明けまでに終わらせると思うと憂鬱になる。休みは生徒会室に缶詰確定だ。 まるで社蓄のごとく働く自分に思わずため息がもれてしまう。 「明日なら手があくから手伝ってやれるぞ」 新しい煙草に火をつけ、八代先生がらしくない思いやりをみせた。
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