日常と化した異常

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教師と生徒の距離としては絶対に間違っている位置にある八代先生の顔。 まつげ長いな、と他人事に考えるくらいには余裕があった。 「何だ、無反応か」 ゼロ距離から少しだけ離れた八代先生が言う。 別に初めてでもなければ、女の子でもない。キスくらいで男子高校生がギャアギャア騒ぐほうが変だ。 ましてやこの政央学園。日常が異常な日々なのだから、これくらい既に日常の一部だと感じる程には麻痺している。 だが、教師である八代先生がしてきた事には少し驚いていた。 「なにすーー…んぅ」 文句を言ってやろうと口を開くと、八代先生の整った顔が再び遠慮なく近づいてきた。 先とは違い開いていた唇をいいことに深くなる口付け。熱い舌の侵入に俺は眉を寄せ抵抗しようと胸板を押す。 たが八代先生はそうはさせないと言わんばかりに頭を撫でていた手を後頭部に回した。 「ンっ……ふぅッ………」 他人と比べるには経験が多いほうではないが、八代先生は上手いと思う。 逃げる俺の舌を絡め、器用に歯の裏側を舌の先端でなぞって。そこまで長いキスでもないのに、口内からはどちらのか分からない唾液が溢れでた。 やっぱりホストなたらし野郎だな。 「いっ……てぇな」 無遠慮に人の口内を犯す八代先生を放置するつもりもなく、角度を変えた隙に唇に噛みついた。 離れていった八代先生の唇を目で追うと唾液とはまた違う赤い液体が流れている。 「思ったより血が出てますね。保健室ですのでご自身で応急処置なさってください」 「適性検査、ご協力ありがとうございました。また生徒会としてお仕事の依頼あるかと思いますが、その時は宜しくお願いします」 「では、僕は帰りますので戸締まりもお願いします」 話ながら机の上を片付け終えた俺は、鞄と封筒を手に保健室の扉に手をかける。 最後に一言文句を言ってやろうと振り替えれば、八代先生は唇の痛みからか情けない顔をしていた。 それは普段からは考えられない姿で、俺は自然と笑みが溢れた。  「ざまあみろ、ばーか」 一言幼稚な文句を伝えれば八代先生は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。 それが可笑しく俺はセクハラされたにも関わらず、機嫌よく自室へと向かった。
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