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昔、直仁さんから義理の弟がいると聞いた事がある。父親の再婚相手の連れ子で血の繋がりはなく、当時既に独り暮らしをしていた直仁さんが弟に会うのは節目行事の際だけだったらしい。
多分、直仁さんの表情から見て仲が悪いのだろうと推測して話の続きに相づちをうつ。
「仲が悪いというか、俺が一方的に苦手意識を抱いてて、どうも弟の破天荒さには着いていけなくてね……芸堂でも生徒同士で問題が多かったらしいんだ」
「陽介も知っての通り政央と芸堂、それから女子高の聖が丘と共学の園宮は全て高良田グループが経営しているのだが、弟は高等部にあがってから既に今回が二度目の転校なんだよ」
高良田グループが経営する4つの学園は関東内では一番のエリート学園である。そのエリート学園をこの一年ちょっとの間三校ハシゴする強者がいるとは、俺は素直に驚いた。
一体どんな問題児なのか興味すら湧く。
「忙しい陽介に面倒を押し付けるようで申し訳ないが、頼まれてくれるか?」
座っていても崩れない伸びた背筋を少し丸め頭を下げる直仁さんに、俺は慌てて返事をする。
「もちろんです、直仁さんの頼みは何より優先事項です。それに、頼っていただけて嬉しいです」
嘘のないはっきりした口調に直仁さんは安堵の表情を浮かべ、机の書類の山から転校生の必要資料が入っているであろう封筒を俺に手渡した。
そのまま俺の隣に腰掛ければ、ギシリと重みでソファーが音を立てた。
「あー……恵子さん元気にしているか?」
俺を見ながら俺でない面影を愛しそうに見る直仁さん。俺の母親である寺崎恵子を呼ぶ直仁さんは、いつ見ても幸せそうに目を細めている。
その表情が、俺はたまらなく好きだ。
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