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Side 直仁
「直仁くん今帰り?今日はしょうが焼きだからごはん食べにいらっしゃい」
あれから恵子さんはよく話しかけてくれ、俺の生活能力のなさを知れば夕飯に招待してくれるようになった。最初は戸惑ったが恵子さんの人懐っこい笑顔に俺はどんどん惹かれていく。
いま思えば初めからあの可愛らしい人に惚れていたのかもしれない。
「直仁さんこんにちは」
恵子さんは二人のお子さんと暮らしている。
10歳の息子の陽介と4歳の娘、ゆずちゃん。ゆずちゃんは恵子さんに似てコロコロと表情の変わる可愛らしい女の子だが、陽介は年の割りに落ち着いた雰囲気のある子供だった。
きっと早くに父親を亡くしせいもあるだろう。
それでも会えばふわりと笑って挨拶をする陽介が年の離れた弟が出来たようで可愛かった。
陽介もまた俺を兄のように慕ってくれた。
数年後、高良田グループに戻るとすぐに政央学園の学園長に任命され忙しい日々が続いた。
アパートから通える距離ではない為、政央学園近くのマンションに引っ越す事になった。当然、恵子さんに会う機会も減る。
恵子さんも仕事と育児に追われる毎日。
俺も慣れない仕事に苦戦する毎日。
会いたい、会いたい、会いたい。
気持ちが溢れる中、それでも発狂せずにいられたのは陽介のおかげだ。
陽介は離れてからもメールや電話で恵子さんの話を聞かせてくれた。たまに添付されている家族三人の写真は全て永久保存してある。
高校にあがってからは、休みに電車を乗り継ぎ会いにも来たな。
いつからか恵子さんの息子としてではなく陽介を好きになった。
もちろん恋愛感情として好きなのは恵子さんだが。
そんな陽介が困っていたのなら転校の裏口手続などごはんを炊くより簡単である。
まぁ、この話はまた追々しようか。
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