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Side 陽介
直仁さんから受け取った資料から顔をあげ、壁の時計を見た。
約束の時間から一時間半。
寮の入り口で待ち合わせをしているのだが、いくら何でも遅すぎるのではと不審に眉を寄せる。
「あっ!お前が寺崎か!!」
直仁さんに確認の電話をしようと思い携帯に手を伸ばすと、キンと耳をしびらすほどの大声に呼ばれた。不快な声に眉間の皺が深まる。
「この学校広くて迷っちまって!どうせなら門まで迎えきてくれりゃいいのにさっ!!」
感嘆符をこれでもかと語尾につけて近づいてくる男、高良田天使(たからだあまつか)は悪びれもせず俺の前で足を止めた。
明らかに違和感のあるボサボサの髪。前髪とフレームの厚い眼鏡のせいで表情ははっきりと伺えないが、さっきから閉じることのない口元は女のようにも見える。
背丈も160ちょっとくらいだろうか。本当に下手な変装をした女なのではと疑ってしまいそうだ。
「俺は高良田天使な!天使でいいぞ!!」
「寺崎の下の名前なんてんだ?直仁から同級生ってきいてたけどお前大人っぽいな!!」
「芸堂もすげーデカイ寮だったけど政央もでっかいな!!あっ!俺の同室ってどんなやつなんだ?」
高良田のきれないマシンガントークに一言も発せず、しらけた笑いを皮膚の上に浮かべる。
人を待たせておいて謝罪もなし。直仁さんが苦手意識を抱くのがよくわかった。
「ってかお前の笑顔嘘くさいな!俺にはそんな顔すんなよな!!」
何なんだこいつは。
初対面の人間にここまで失礼に接する事ができるか。普通の神経の持ち主なら無理だ。
俺は目の前の無神経な男に笑みをより深めた。
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