年の差は経験の差

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八代先生がエプロンをして台所に立つ姿を想像するとあまりの似合わなさに自然と口角があがる。 実際に料理をするかは知らないが、最近の忙しさではまともに夕飯をとれているとは思えない。 少しでも栄養のあるものを、と母親に無理言って作ってもらった惣菜を無駄にしたくない想いと共に階段を昇る。 マザコンと言われるかも知れないが、俺の母親の料理はうまい。 高級食材を一流シェフによって調理されたものを好んで食べるここの学園の生徒たちの口に合うかは知らぬが、味は直仁さんもお墨付きだ。 まあ、あの人の場合はきっと失敗したものですら美味いと食べそうだが。 「陽介?こんな所で何しているんだ」 丸焦げの料理を美味しいと食す直仁さんを想像していると、後ろから本人に呼び止められピクリと肩が跳ねた。 振り返れば一目で疲れが見とれる直仁さんの姿。 寝不足なのか普段より目付きも悪く、声も低い。 「ここは学生は立ち入り禁止のはずだが」 俺は目を見開いた。 知らぬ規則に驚いたのもあるが、直仁さんが俺に対し他人行儀に怒りを見せた事が信じ難い。 疲れからだと理解はしていても硬直してしまった。 「……それ、恵子さんの?」 「あ、は…い」 「ん、陽介?」 「ごめ…、なさい」 革靴をコツコツと鳴らし近づく直仁さんは、手提げのタッパーから香る惣菜の匂いに少し背を丸め嗅ぐ。気持ち声が晴れた気がするが、今の俺はそれどころではない。 直仁さんに怒られた、その状況に軽いパニックを起こし吃りがちに謝罪を口にした。
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