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「すまん、ちょっと疲れで気が立っていたようだ」
俺の様子に自分がどれ程威圧的だったか気付いた直仁さんは、いつも見せる困ったようなぎこちない笑顔を浮かべる。
その顔にほっと胸を撫で下ろし今一度謝罪を口にした。
「いや、立ち入り禁止も正確な規則って訳ではないからな。暗黙のルールとして生徒はみんな知っているのだが、陽介には言ってなかったな」
「疲れているのにすみません、すぐ帰りますね」
「今後気をつけてくれたら今日はもういいよ……それより、その恵子さんの手料理はどこに持っていくんだい?」
プレゼントの箱を目の前にした子供のようにそわつく直仁さんが愛らしく、先までの緊張感がすっと消え俺はことの事情を説明した。
聞いている間も直仁さんの視線はタッパーから離れず、自分の口に入らないと分かれば目に見えてガッカリと肩を落とした。
本当は寮の自室に直仁さんの分もあるのだが小さなイタズラ心からこの場で言うのはやめる。
「お前ら人の部屋の前で何してんだ?」
俺が密かに直仁さんの反応を楽しんでいれば、また後ろから声をかけられた。
今度はここにきた目的の人で、いつもと変わらず気だるげに煙草を咥えてこちらへと歩いてくる。
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