1016人が本棚に入れています
本棚に追加
校内では細身のスーツをスタイリッシュに着こなす八代先生も、休日はスウェットに無精髭と一般男性と変わらぬ装いらしい。
近くに無精髭を生やす大人が居なかった俺は興味からじっと八代先生のそれを見る。
その間に直仁さんが俺の代わりにここにいる理由を説明してくれた。
こう二人が並ぶと圧巻というか、学生には出せぬ大人の色気を感じる。スウェットすら格好良くみえてきてしまうから不思議だ。
「まあ立ち話もなんだから中入れ」
そう言って八代先生は高そうなキーケースから鍵を出し鍵穴を回す。
お言葉に甘えて少しだけお邪魔しようと一歩前に進んだ所でふと思い出し後ろを振り返る。
「直仁さん、お疲れの所すみませんでした。何かご用事で職員寮こられたんですよね?引き留めてしまって本当にすみません」
学園外にマンションを借りている直仁さんがここに来る理由は他の先生に緊急の用事とかだろう、と勝手に解釈した俺は頭を深々と下げた。
だが直仁さんから返ってきた返事は予想したものと違い思わず吹き出してしまう。
「いや、こちらにも部屋があるから疲れている時は寮を利用しているんだ。それと出来たら……俺も恵子さんの手料理ひさびさに食べたいんだが」
やはり視線はタッパーに向けられており、待てをする犬のような表情の直仁さんが可愛らしい。
改めて自分の母親をここまで愛してくれるこの人が大好きだと実感する。
イタズラに成功した子供のようにニンマリと口角をあげ、俺は「直仁さん」と大好きな目の前の男の名を呼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!