年の差は経験の差

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「あれが弟ってのも強烈だよなー、最近の直仁の仕事は高良田の尻拭いが主らしいぞ」 「騒々しいだけならまだいいのですが、器物破損や部室への不法侵入、あげく怪我をした生徒までいるみたいですね」 「お前らは特に問題なさそうか?」 「直仁さん程ではないですが高良田へのクレームが生徒会にも殺到しています。けど、八代先生のおかげで直接的な被害は特にありません」 ありがとうございます。と座ったままではあるが頭を下げる。 その頭をくしゃりと撫でられ目を丸くすれば、八代先生は「なら良かった」といやに甘い声で呟いた。 元ホストの囁きは殺傷能力があるらしい。これで何人の女の心を射ぬいたのだろうか。 ばくりと煩くなりかけた心臓に蓋をし顔をあげ空になったおちょこに酒をなみなみと注いだ。 「寺崎になんかあったらこの旨い飯がもう味わえなくなっちまうからな」 どこか誤魔化すようにも聞こえる八代先生の言葉に疑問を抱きつつも、また食べたいと言ってもらえた事が嬉しくて気にとめるのをやめた。 それと同時にある不安が過り、八代先生に釘をさす。 「母に惚れないでくださいね」 俺は直仁さん推しであり、直仁さんの邪魔になるライバルなど存在する必要がない。 マザコン丸出しな台詞に耳を染めながらも八代先生をじっと睨み付ける。直仁さんの恋を邪魔するようなら一生許さないぞ、と目で訴えながら。 「惚れねーよ…………この鈍感が」 でこぴんをされた。 勢いのある指先が想像以上に痛く最後の言葉を聞き逃してしまう。首を傾げ伺えば「なんでもねーよ」と八代先生は眉を下げて笑った。
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