1

4/7
前へ
/7ページ
次へ
「ゆい、ゆい」 「うん?」 「当てられてる」 ぱっと前を見るとヤマウチがこちらを睨んでいた。慌てて教科書に書いた答えを読み上げると、残念そう「う」とか「あ」とか呻いて、もそもそと授業が再開。 「ありがとマシロ。気づかなかった」 「全く、ヤマウチ性格わりーんだから」 「まぁ私もぼんやりしてたし…」 「そういうのに、いきなり当てるっていうのが性格悪いんだって」 少し体をひねって後ろ斜めのマシロに手を合わせる。今もその背の差はあまり変わらない(とはいえ本人はこれからが成長期だと主張している)が、無邪気さは鳴りを潜め口も悪くなった。それでもまだ少し子供っぽいところは直らなくて、本人は気にしているが私はそれでもいいと思う。不良じみた言動をしつつも、どこか許される雰囲気があるのはそのせいだし。 それにしてもヤマウチの授業はつまらない。ひょろりとした長身を猫背気味に屈めて教卓の上の教科書を捲る姿は、昔テレビで見た長身の宇宙人のようだ。手持ち無沙汰な時は神経質そうに眼鏡を弄る。それでぼそぼそと喋るものだから、まだ小学生から脱げ出せていないような、所謂ガキ大将と呼ばれるようなやつらがあだ名を付け出す。『メガネ』だとか『ガリ』だとか取るに足りないものではあるのだけれど。 相変わらずぼそぼそ続けられる授業に、嫌気が差してそろそろ本格的に寝てしまおうかと思い始めた途端、チャイムが鳴る。ノートは真っ白。教科書の問題に無理矢理書き込んだ答えがぐちゃぐちゃと主張している。適当に挨拶をして、そそくさと立ち去るヤマウチをなんとなく眺めながら、脱力したようにまた座る。 「数学得意な人はいいよねぇー」 「マシロも予習してくればいいのに」 「そんな暇ないよぉ」 あーもうあいつ何言ってんのか全くわかんない!!と叫ぶマシロを見て呆れたように笑う。確かに人に伝える気がないような声で授業するヤマウチもヤマウチだが、マシロの数学センスも相当のものだ。小学校の頃はあまり気にしなかったような成績の差も、気づけば相当大きな存在になっていた。 「次、なんだっけ」 「…席替え!!」 ぴくんとマシロの二つ結びが揺れる。そういえば昨日、そんなことを言っていた気がする。席替えの時間、というわけじゃなくて総合のなかの一部。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加