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きらいでは無いけれど、好きではない空気。
「マシロ今回席替えやだよ」
「なんで?」
「なんでって、せっかく同じ班になれたのに」
前回同じ班になった人が、次も同じ班になる確率は限りなく低い。みんなと仲良く、という思わず小学生かと突っ込みたくなる目標を掲げる我がクラスの学級委員長が席を決めるからだ。迷惑この上ないが、集まると煩い男子を離すことには役立つから文句も言えない。数合わせなのか、たまたま同じ班になれたけれどそれが続くとも思えない。
「それはしょうがないでしょ。ほら、席戻んなよ」
「う??」
廊下にいたヤマウチが戻ってくる。こいつが担任であることが残念でたまらない。担当教科以外でもこの顔を見なければならないなんて。
ぼんやりそんなことを思いながら周りの音を聞き流していく。浮ついたクラスを諌めるようなヤマウチの説教、学級委員が黒板に席順を書き込んでいく音。白いチョークが手元で跳ねるように動く。
当然のようにマシロとは別の班だったが、そんなに遠いわけでもない。それでもむすくれるマシロに軽く笑って、席を移動させるべく立ち上がった。
男子との接点が全く無いわけでもない。しかし他の女子のように積極的に絡みに行くわけでもないから、同じ班の男子が誰だって別に良かった。自分の位置に席を置くと、女子を探す。もう一人の女子は、私の斜め前窓際の席。小さな音を立てて机を置いたのは柏木さんで、なんの感慨もなく興味を失った。大人しくて目立たないような子。成績は多分いい方、でも先生にわざと媚びるような真似はしなくて、周りの反感を買わないように生きてる子。そういう印象だった。
「すまんちょっと呼ばれてる」
「了解了解。いってらっしゃい」
昼休み、委員会の集合に呼ばれたマシロを送り出すように適当に手を振る。普段ならどちらかの机に集まって、暇をつぶす様にでたらめなことを話したり絵を描いたりする。でも一人ではなんとなく味気なくて、手持ち無沙汰にうろうろと視線を彷徨わせる。
(…白)
瞬きするのも億劫なくらい驚いて、目に映る白を食い入るように見つめる。ぼんやりと、白く光る。本だ。何も書いていない、まっさらな本。その白の上を、ほっそりした手がなぞって、滑っていく。その白の眩しさに飽きたように、またページが捲られる。次のページも完璧なまでに白かった。
(柏木さん)
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