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 歯ブラシを二本買ってきた。一人暮らしなのに、何となく。予備のつもりだったんだっけなあ。毛先が開いてしまった古い歯ブラシを捨てて、新しい歯ブラシを二本、どちらもおろしてしまった。  あ、しまった。予備じゃないじゃん。  そんなことを、ぼんやり考えた。  私、山嵜叶絵(やまさきかなえ)は、小さな工場の事務をしている。朝起きて、会社に行って、定時に帰ってくる。最近仕事自体があまり無くて、もしかして、会社がつぶれちゃうのではないかな、と不安に思っている。  毎日、同じことの繰り返し。今年27になるけど、彼氏もできる気配がない。田舎の工場だ。周りは作業工のおじさんばかり。出会いがない。  もしかして、寂しくて、歯ブラシ二本買ってきたのかな。たしかに並べると、誰かと住んでいるみたいかも。色も赤と青でいい感じ。なんて。 「余計に、むなしいだけ、じゃん」  ポツリ、呟いた。
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