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   ピンポーン。  インターホンがなる。  誰かが来たようだ。  時計を見ると、23時過ぎ。こんな夜遅くに誰だろう。  私はふと、最近パートのおばさん達が噂している話を思い出す。  最近宅配便とかー、業者を装った強盗が流行ってるんだって。開けたら最後、中に押入られるらしいよー。  話をよく聞くと、県内でも比較的都市部の地域の話のようだったが。もしかして、こんな田舎のアパートにも、強盗が現れたのだろうか。  いやいや、まさか。  部屋違い、かも。  インターホンのテレビモニターを覗いてみる。  無機質な暗闇に、インターホンの光で廊下が照らされている。  モニターには、誰も写ってなかった。  イタズラかと考えていると、今度は声がした。 「すみません」  ひ、声が出る。  カメラの死角に男性がいるようだ。  宅急便の類ではなさそう。 「夜分、遅くに、すみません」  男性は繰り返す。私は通話ボタンは押さず、モニター画面を見続けた。   「あの、実は、雨が」  雨が? 「急に、雨が降ってしまって、あの、結構降ってて、傘を貸してもらえないですか?」  姿の見えない男は言う。雨音は聞こえないが、本当に雨は降っているのか。 「すみません。本当に、大変失礼だとは思ったのですが、灯りが、ついているのが、お宅しかなかったものですから」  本当に困っている様子の声だった。この間、急に降られたときに買った、ビニル傘が有る。捨てるのが面倒だと思っていたのだ。男は私が在宅だと、窓から漏れる灯りを見て確信してしまっている。それならいっそ、傘をあげてしまった方が、良いのかも。    
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