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 今思えば、居留守を使うから、どうしても相手が帰らないなら警察を呼ぶべきだったが、次の日も仕事であったため、早く済ませてしまいたかったのだ。  私は、インターホンの通話ボタンを押した。 「あの」  声がこわばる。 「あの、すみません」  声をかけると、カメラに男性が映った。私は別の意味で息を呑んだ。  黒髪で、目は切れ長、薄い唇。  すごくかっこいい男性だった。何なら、好みだった。  その男性が、嬉しそうに微笑んだ。 「よかった。夜分にすみません。先ほども言いましたが」  勝手ながら、私は一人高揚した。  ビニル傘くらい貸してあげよう。返さなくても良いけど、何なら、連絡先とか教えてもらっても。 「今晩泊めてもらえませんか?」  は? 「今晩泊めてもらえませんか?」  この人、急に何を言っているんだろう。 「あの」 「泊めてもらえませんか?」 「ちょっとそれは出来ません」 「泊めてもらえませんか?」 「あの、だから!」 「泊めてくださいよお」  にやにやと、男性の下品な笑い顔が目に入る。ぞっとした。 「もう、き、切ります」 「ここを、開けてくださいよ」 「い、いい加減にしてください! 警察呼びますよ!」     
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