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「があああああ!無理無理無理!思いつかないいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
完全にオーバーヒートしてしまい、私は叫んだ。現在地、自宅。ボロアパートの一室。さらに詳しく言うならそこにコタツを出してぬくぬくしている私(三十五歳女・OL)。このせっまい家の中で、わざわざ後で片付ける手間があると知りながらコタツを出してきた理由は単純明快だ。
自分が登録している投稿SNS――エブリスタの『三行から参加できる超・妄想コンテスト・第92回「ぬくもり」』に応募する作品を書く為である。このコンテストは、文字数が100文字~8000文字と決められている。この文字数の範囲の短編で、お題に沿った作品を書いてみんなで投稿し、受賞作を決めるコンテストだ。
今回のお題は、“ぬくもり”。ぬくもりってなんぞ、まあ基本あったかいってことだよな――そう思って私は押入れにしまいこんでいたコタツを出してきてセッティングし、とりあえずもぐりこんでぬくぬくしてみた次第だった。単純と言いたければ言え、コタツでぬくぬくしてれば何か思いつくだろう!と思うのは何もおかしなことではないではないか。――ありきたりすぎる、というのは自分だってわかっているのだ。
『今回のお題もなかなか難しいですねえ。ぬくもり、ぬくもりですか…うーん』
私の真正面、コタツに潜り込んでいる同居人その1――長い茶髪のバンドマンっぽい青年が告げる。その手首からだらだら血を流して。
『いくらなんでもコタツってちょっとありがちじゃないですかぁ?そんなの誰でも思いつくっていうか。妄コンで大事なのはアイデアっていうか説得力っていうか、そういうのないと歯牙にもかけられないというかー』
爪のお手入れっぽいことをしながらぶらぶら吊り下がっているのは、派手な化粧のお水っぽいお姉さんだ。いかにも頭悪そうな見た目(失礼)に反して、言っていることは相当真っ当である。
まあ首吊りしているせいで顔色真っ青などころかドス黒くなってるわけだが。
『もうどうでもいい…そんなことよりコタツ最高だぁ…』
そして議論に参加する気もないのが、私の左隣でコタツに潜り込んでいる中年のオッサンである。いかにも工場で作業してますといった雰囲気のツナギを着て、のほほんとコタツのあったかさをご堪能中である。――その後頭部は、べっこり凹んで血まみれになっているわけだが。
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