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ぺしり、とオッサンの後頭部をはたく。へこんでいる頭が余計ヘコむだろー、とコタツにもぐりこみながら言うオッサン。そんなもん知るか、そしてコタツ占領すんな。
『仕方ないですねぇ。アイデア、アイデア…コタツでぬくぬくしつつ一人寂しくオバケ相手に怒鳴ってるOLの話はどうですかあ?いっそノンフィクションって出しちゃえば人気でるかもぉ?』
死んでるくせに自分の爪ばっかり見ている風俗嬢は、こっちに視線を投げもしないで言う。というか爪よりその顔色なんとかしろよ、というのは野暮なんだろうか。本人のテンション次第で、ただでさえドス黒い顔が余計ドス黒くグロくなっていることにどうか気づいてくれと言いたい。
『あーでもやっぱりコタツじゃ駄目ですよねぇ。ありきたりなネタなんて見向きもされませんもんねぇ。そもそもぬくもり、ってお題だからってコタツ出してくる時点で安直ー』
「だからそれはもういいってば!わかってるからあんたらにアイデア出し頼んでるんでしょー!?」
『ぬくもり、ぬくもり…恋人のぬくもりで一つ話を書いてみては?……ああ、無理ですね。マナミさん彼氏いない歴=年齢ですから恋愛なんて書けませんよね』
「余計なお世話!ていうか何で知ってんのよおおお!!」
マナミ、というのが私の名前だ、念のため。一見常識的に見えるバンドマンは随分冷たい。三十五年もの間ぼっち貫いている私は涙目になるしかない。悪かったな、喪女で!
『あったかいものと言えばやっぱり実家に帰った時のおふくろの飯じゃないかね…うう、おふくろぉ…先に死んじゃってごめんなあ。あんなところに本棚置いておいた俺がばかだったよお…ぐすっ…』
オッサンは例のごとく愚痴と泣き言を始めてしまう。本棚を置いておいたことより、新聞を床に広げたまま出しっぱなしにしておいたことの方を反省するべきなんじゃないのか、とは心の中で。
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