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「ほのか、じっとしてなさい!」
「いいですよ、小さい子にじっとしてろなんて可哀そうです。詰まんないんだろ、ほのかちゃん」
「ううん、お外見てるの面白い」
「そうか、良かった!」
小野寺は自分の出番が無いことに焦りを感じていた。和田の余裕ある対応がことごとく自分の印象を影薄いものにしていく。
本当なら自分が後ろに行ってほのかと遊びたい。可愛いし、何より砂原との間にある垣根を越えられそうで。
どうしてもこの旅行で告白したい小野寺は、砂原の記憶に自分の存在を刻みつけたかった。けれど自分が後ろに行ったら砂原は助手席に行ってしまう……ジレンマに陥る小野寺……
田中は珍獣を見るような目つきで隣に座っている桜井を見ていた。臆することなく自分に話しかけてくる10月からの部下に、最初は好意を持ったのだが……
中山が隣に麻衣を座らせた意味が分かって、後ろから睨みつけた。穏やかに話を楽しんでいる前の座席。辟易するほどのお喋りの渦に巻き込まれている後部座席。
(覚えてろ! ドライブインで席を交代だ)
「田中さんって怖いかなぁって思ってたけど、見かけとだいぶ違いますよね、大人しい人って感じ。奥さんいるって聞きました。大人しいってことは、奥さんの尻に敷かれてるってことですか? 大変だなぁ、それって。お弁当とか作ってもらえてます? そういえば田中さん、何が好物なんですか? 私はから揚げが好きなんです! でもガリガリした外れじゃなくって、ジューシーなヤツです。あの肉汁がジュワーって……」
一つだけ助かったことがある。返事が要らないことだ。
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