作家の夢を諦めて、サッカーサポーターになって。

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 マーキュリー水星はもがいた、あがいた。選手たちは必死にフィールドを駆けた。  一個のボールを二十二人で奪い合って転がし合って、ゴールを狙って。  だが、揺れるのはいつも自分とこのゴールネットだった。  それはまるで、作家を夢見て文学賞に応募するも落選続きだった自分のようだった。  クラブのシーズンの戦いぶりと自分の小説人生が、もろ被り。見ていて変な心の痛みを禁じ得なかった。 (応援するクラブもうだつが上がらないなんて。なんか、こう……、僕の人生って)  試合が終わり、サポーターのもとまで挨拶に来る選手たちの、うつむいた苦々しい表情。中には人目もはばからずに、泣いている選手もいた。 (僕も、文学賞の結果を見て、あんな顔してたんだろうな)  ため息をついて、首を横に振った。その直後。 「顔を上げろ!」 「オレたちはまだ諦めちゃいないぞ!」 「最後まで戦い抜け!」  サポーターたちの必死の声援。ブーイングもあったが、 「ブーイングを掻き消せ!」  誰かが言うや、サポーター有志たちはあらん限りの声で励ましの声を絞り出した。  いい加減、試合中に声を出して喉も枯れているというのに。 「ここで私たちまで諦めたら、何もかも終わりだよ!」 「ブーイングはやめよう、選手たちを励まそうよ!」  勇気を出して、ブーイングするサポーターを諫める人もいた。  僕は、金縛りにあったように、それを眺めていた。 「そこまでするのか!」  何かが胸を打ったような感覚を覚えた。 「諦めるな! オレたちは諦めない!」  すぐ横のサポーター仲間までもが、そう叫んで、僕の方を向いて、 「君も何か言ってあげてくれ!」  などと言うではないか。  え、僕が? と、戸惑った。僕は夢を諦めた人間だ。そんな奴が、偉そうに人に激励をしてもいいものかどうか。 「こんな時だからこそ、ひとりでも多くの応援が必要なんだ、頼む!」  まるで仏を拝むように、仲間は手を合わせる仕草までする。 「……」  鬼気迫る仲間の表情に圧されて、引いてしまった。しかし、ここまでされては無下にもできず。  わかりましたと、 「頑張れ! 頑張れ!」  月並みながら、僕はそう叫んだ。 「ありがとう、ありがとう!」 「いえいえ、そんな……」  仲間は大げさに喜び、僕の手を握りしめて。その手のぬくもりを感じて。照れるやら戸惑うやら、反応に困った。
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