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   海辺の茶屋でただのんびりと、綺麗どころを眺めて過ごすのは月に一度の楽しみだ。この日以外は仕事に忙殺される。いや。この日の為に、ほかの日はひたすら執務に明け暮れているだけだな。  年は十九、名は朔夜。  俗に色子(いろこ)の盛りは過ぎたと言ってもやんちゃそうなまるい目が愛くるしい。よきかなー。 「主さん変わったお人やねぇ。買い切りのお客なんか無体してなんぼみたいなんばっかりやよ? お山に行ったらいっときお客取られへんなるもん」 「そうかそうか……可哀想に。こちらへおいで」  昼から敷きっ放しの夜具に招き胸に抱き取ると、髪からよい匂いがする。 「ねえ主さん。朔、ほんまに何もしんでええのん? これでも三味線は評判なんよ?」 「三味の音はどうにも苦手でなぁ」 「お(いど)の締まりもええゆうて評判なんよ?」 「よいよい。私は添い寝の相手が欲しいだけの年寄りゆえ」 「ほんまに変わったお人やねぇ」  百数十年も昔には隆盛を極めたと言う蔭間茶屋(こどもや)も、弥助曰く『探せば意外とある』らしい。  欧米から男色を批判されて表向きは存在しない事になっているが、時代が変わっても人の本質的な嗜好まで変わる訳でなし、女人禁制の山がなくなる訳でなし。需要は確かにあるのだろう。  今のこの私のように。
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