清潔な洋菓子

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学くんの住んでいるアパートは、駅からかなり離れたところにあった。  きれいな感じにリフォームしてあったけど、階段の作りとか、インターフォンの感じなんかにちょっと時代を感じた。 こういうアパートを見かけることはあっても、中に入った経験はない。  それに、ここからは学くんの私的な空間だ。  カバンから鍵を出してがちゃっと回すその仕草に、ここから先の世界を想像して、静かに高揚した。   狭い玄関。 よその家の匂い。 1Kといやつなのだろうか。 六畳くらいの本当に小さな部屋におもちゃのようなキッチンが申し訳程度についている。  あまり日当たりが良くなさそうな部屋で、すでに薄暗い。  だけど学くんが電気をつけると、印象が変わる。  家具も物も少ないけれど、シンプルでセンスがいい。 「その辺座ってよ。麦茶でいい?」 「うん」  遠慮がちに腰を下ろす。  目の前の小さな白いテーブルはきれいに拭いてあったけど、よく見ると小さな傷がたくさんあった。 中古品なのかもしれない。  あんまりジロジロ人の家を見るのは失礼かな、とも思ったけど、見ずにはいられない。  とても清楚な空間だったが、やっぱり狭い。 当然、学くんはここでお姉さんと布団を並べて寝ているのだろう。 姉弟とは言え、男女がふたりで暮らすには密閉され過ぎていると感じた。 「部屋、狭いっしょ」 コップに入った麦茶を二つテーブルに置きながら、学くんは私の斜めとなりにあぐらをかいた。 学くんの長い脚が、こんなふうに折れ曲がってこんなふうにジーパンに皺をつくるのかと、ささやかな感動を覚える。 学くんの一挙一動にどきんどきんしてしまって、一瞬お姉さんのことを忘れる。
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