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残業をしていたら雪が降ってきた。
積もらないうちに帰らないとって
思ってたのに終われなくて
気がついたら夜も更けて
隣の営業部を覗いたら誰もいない。
当たり前か。
溜め息をついてコートを羽織る。
外へ出たら営業部の同期が
缶コーヒーを買っていた。
「今、あがりか?」
「橘君も?」
「寒いから一杯やってた」
「一杯って、お酒みたい」
「笑うなよ。お前もやる?」
「えっ、良いよ」
橘君は遠慮すんなと、どれにする?って聞いてくる。
「自分で買う」
財布を出そうとしたら、先に小銭を入れられた。
「たまには甘えろよ」
ピッて押されて出てきたのは、甘酒。
橘君は私に押し付けて歩き出す。
「待って!」
橘君は追いかけた私に振り向く。
「それじゃ不満か?」
「違うけど。ありがとう。でも何で甘酒?」
「酒飲みたそーな、顔してたから。せめてな」
「酒呑みみたいに言わないでよね」
「違う?」
「違います~、ふっつーのOLです~カルアミルク嗜む程度です~」
「それ、何アピールよ?俺に女子意識させてどうすんの?」
「何かムカつく」
私は甘酒をくびくびと飲む。
「いい飲みっぷりだね」
「ほっといて!」
そんなやりとりを駅前に着くまでして、橘君は別方向の駅なことに気がついた。
「じゃ、おつかれ~」
「ちょっと、待って」
「?」
私は鞄から小さな袋を取り出した。
「バレンタインだから。手作りじゃないけれど」
「お前の部署で余ったやつか?」
「義理じゃないし」
私は彼の手に数日前から用意していたチョコを差し出している。
「いつも親切にしてくれるお礼に」
橘君は溜め息をつく。
「お前さ、それ、義理って意味だから」
「違うし」
「はいはい」
むくれる私に橘君は呆れ顔でまあ、貰っとく、とチョコを受け取ってくれた。
「ほら、早く行けよ。本命待ってるんだろ?」
「本命には今、渡せたもん」
「はいはい。は???」
「じゃ!おつかれ~」
私は戸惑う橘君を放置して改札をすり抜ける。
階段を降りながら、彼は今どんな顔をしてるんだろうって想像したら顔がにやけて、寒さが緩んだ。
私も彼も残業が同時に終わった。
そんな嬉しい偶然が起きる夜は
橘君はちょっとだけ隣の部の
私の席を確認して
外で待っていてくれる時がある。
もしそんな私の予想があっているなら
橘君の本命になりたいっていつからか
願ってた私の気持ち
わかってくれたかな?
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